読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

首都圏で鉄道自殺が増えているというのは、錯覚ではなかった。

はじめに

最近、首都圏の鉄道では毎日どこかで「人身事故」が起きているように思う。

ここ数年で急速に鉄道運行情報が伝達されるようになり、自分が乗る路線以外の情報も得られるようになったので、件数が増えたように錯覚しているのだと思い込んでいた。ちょうど、犯罪報道が増えれば犯罪件数が増えたように錯覚するのと同じで。

 

だが、首都圏の鉄道では実際に自殺が増えているようだ。

鉄道ピクトリアル 2014年6月号に「都市鉄道における輸送トラブル発生時の対応に関する研究」という小論文が載っていた。これによれば、

"東京圏の輸送トラブルは、人身障害事故による運転事故、部外原因による輸送障害が多く発生しているという特徴がある"

"部外原因のうち、約70%を自殺が占め、東京圏の輸送障害を引き起こす主要な原因となっている"

 とあり、首都圏だけが突出して自殺などの人身事故が増えているようだったのだ。

 

実際はどうなのか。

この小論文ではグラフが多く使われており、出典は「国土交通省のホームページより作成」ということなので、私も作成してみることにした。

輸送トラブルと運転事故輸送障害

私たちが普段「電車の遅れや運休」などとして認識する"輸送トラブル"は、"運転事故"と"輸送障害"に分類されている。そして、その違いは必ずしも明確ではない。

 

"運転事故"の定義は細かい。

だが、"輸送障害"の定義は、30分以上の遅れか運休を出したもので、運転事故以外のもの、ということになっているようだ。

 

では、今回知りたい鉄道自殺は"運転事故"と"輸送障害"のどちらなのか。

 

鉄道自殺に着目する場合は、"運転事故"扱いの自殺"輸送障害"扱いの自殺の両方を見る必要がある。この辺り、もうすでに分類が人間の命ではなく鉄道都合になっている感がある。

 

両方の数字を足せば、鉄道自殺の件数がわかるのか。

 

実は"運転事故"扱いの自殺の件数ははっきりしない。

駅のホームから線路に転落して死に至った場合、事故なのか故意の自殺なのか分からない場合もある。

 

一方、"輸送障害"扱いの自殺の件数は、統計上ははっきりしている。
鉄道事業者国土交通省に"輸送障害"の原因を届けるときに自殺として扱ったものが自殺なのだろう。

 

そこで、ここでは"運転事故"のうちの"人身障害事故"の件数と、"輸送障害"のうちの"自殺"の件数を見ていくことにしたい。

 

2012年度の輸送トラブル

f:id:banocchi:20140608155058p:plain

2012年の人身障害事故については、全国429件中の207件が首都圏(関東運輸局管内)で発生している。

2012年の輸送障害扱いの自殺については、全国631件中の383件が首都圏(関東運輸局管内)で発生している。

では、過去はどうだったのか。

 

運転事故と人身障害事故

f:id:banocchi:20140608020722p:plain

なんと、首都圏(関東運輸局管内)の人身障害事故(赤破線)は、2003年度の3倍以上に増えていたのだ。*1*2*3

この間、非常ボタンを目立つようにしたり、ホームドアを設置したり、安全対策を行ってきたにも関わらず、である。

 

輸送障害と輸送障害扱いの自殺

f:id:banocchi:20140608021154p:plain

また、首都圏(関東運輸局管内)の輸送障害扱いの自殺(オレンジ破線)も、2003年度の1.4倍に増えていたのだ。高架化・地下化を進め、踏切をなくしてきたのに、である。*4*5*6

 

首都圏の通勤・通学客の「自殺慣れ」

相互直通運転が広がったことで、1件の運転事故や輸送障害の影響範囲が広くなったことや、運行情報が広く提供されるようになったことだけではなく、実際に自殺が増えていることがわかった。

それも、首都圏で突出して。

首都圏(関東運輸局管内)の人身障害事故は、2003年度には全国の17%だったのに対し、2012年度には48%を占めるまでになった。東京・神奈川・千葉・埼玉で特に増加している

首都圏(関東運輸局管内)の輸送障害扱いの自殺は、2006年度には全国の51%だったのに対し、2012年度には60%に達している。東京・神奈川・千葉で特に増加している

 

私は首都圏在住だが、よくツイッターで「また人身かよ……」といったつぶやきや「日本は、人の命よりも列車ダイヤを優先するのか」といったつぶやきの両方を見かける。

正直に言って、見知らぬ他人に鉄道で自殺されるのは迷惑だ。

だが、迷惑だという主張ばかり目立つのは少し気味が悪い。

今回自殺数を調べてみて、昔は自殺者に対して思いを馳せた人も、この自殺数の急増に感覚が麻痺し、慣れてしまったのかもしれない、と思うようになった。近年の"荒い"気候に慣れたように。

この首都圏の病、なんとか変えられないものだろうか。

 

ホームドア設置

この記事を読んでいただいた方から、ホームドアの設置がもっと進むとよいというコメントをいただいた。確かにそのとおりなので、少し調べてみた。

f:id:banocchi:20140608153912p:plain

2003年度から2012年度までの10年間で、首都圏のホームドア設置駅数は113駅(2003年度)から285駅(2012年度)へ増えている。*7

 

ただし、これにはカラクリがあって、つくばエクスプレス日暮里・舎人ライナー副都心線などのように、建設時からホームドアを採用した路線の新規開業が含まれている。

 

既存路線では地下鉄が丸ノ内線有楽町線大江戸線、あとは山手線と京王線くらいで、2012年度で+82駅というところか。

 

首都圏の2573駅(2012年度)*8全てに設置するのは現実的ではないにせよ、285駅ではまだまだ少なすぎるだろう。

 

ウェルテル効果?

この記事を読んでいただいた方から「ウェルテル効果」について教えていただいた。

ウェルテル効果Werther effect)とは、マスメディアの自殺報道に影響されて自殺が増える事象を指し、これを実証した社会学者のPhilipsにより命名された。特に若年層が影響を受けやすいとされる。

最近では、新小岩駅での5件の自殺について、ウェルテル効果ではないかとの声を見かけた

これは今のところ、報道との関連性の指摘に留まっているが、もし仮に、駅のディスプレイやインターネット上での(特に人身事故に関する)運行情報の提供が、自殺を誘発しているとしたら、大変なことだと思う。