「グラマリエの魔法家族」

友人とこんな話をした。

「誰もが情報を垂れ流すこの時代ってどうなのよ」

「でも、過去を見れば、黒人に人権とか、社会主義思想とか、女に選挙権とか、きっとその時代の人にとってはついていけなかったんじゃない?」

「自分たちもついていけなくなってるのかなぁ」

「それでもねぇ……」

 

で、唐突に「グラマリエの魔法家族」を思い出した。

 

1970年代アメリカの小説で、中学生のときに読んだ。

基本的にはエンタメなのだが、キリスト教的価値観や、十分な教育と自由な意見の表明が、社会を進歩させるのだ、という思想に満ちあふれている。

個人的にいまなお非常に影響されている小説。

 

出版順ではなく時系列順にあらすじ。

 

20世紀 タイムマシン発明される。

 

22世紀頃 PEST(プロレタリア電子国家テラ)誕生。

 

(第5巻 序盤)

全体主義的な支配に反発した一部のレジスタンス=引きこもりは「D&D」にふけっていた。

支配が及ばない星に脱出したメンバーは夢見がち=エスパーの素質があり、到着した星で近親交配を繰り返した結果、ついに強力なエスパー=魔法使い、魔女が生まれるに至った。

 

(第6巻 461ページ~)

一方この時代は、公教育は初歩的なものに留められていたが、地球に残ったレジスタンスたちは、3Dテレビドラマや音楽やゲームを通じて、民衆の教育を試みていた。

 

「しかし本当の限界は論理の立てかたを教えることです――これは生きた人間の教師が導いてくれることが必要なのでね」

「教育は結局のところ生きた教師が、学生のすぐ前でおこなうものですから。人間の心にまさるものはありませんよ」

 

23世紀頃 DDT地方自治体民主裁定委員会)地下活動開始。

 

25世紀頃 PESTが打倒され、DDTにより民主化が進む。

 

30世紀頃 DDTには67の惑星が加盟。加盟惑星間の政治状況は極めて良好だった。

 

(第1巻 19ページ)

「全人口の72パーセントの人々に読み書きの能力と修士の学位をもたらしてきた。したがって"偏見"はポリオやガンと同じく治癒できる病気のリストに入っている」

「教育を受けたおかげで、主義として多大な不平を訴えるのが一般的傾向となった――民主主義にとってはすべて健全なしるしだ」

 

しかし、DDTにも二つの悩みがあった。

一つは加盟惑星間のコミュニケーション。超高速通信を使ってもコミュニケーションに時間がかかりすぎる。

もう一つは、PEST時代に失われた惑星を民主化の方向に持って行くこと。

 

かつてエスパーたちがたどり着いた惑星では、中世的な文化が成立していた。女王がいて、貴族がいて、教会がある。そして、本物の魔法使いと魔女がいる。ただし、彼らは迫害されていた。

 

そして、その背後では、民主主義DDTに敵対する全体主義組織VETOと無政府主義組織SPITEが暗躍していた。かれらはタイムマシンを使って未来からやってきていた。

 

(第5巻 48ページ~)

「政府というものは大きければいいんじゃない」

「指導部には、ある問題について決定がなされ実行に移される依然に一般大衆の考えを把握することはできなくなる。すると、投票者は好ましからざる決定にも屈伏せざるをえなくなり、ついには反逆に出る。反逆が鎮静されたとしても、それは抑圧を生み、新たな反逆をはぐくむことになる。そして最後には、民主主義は崩壊するか独裁性に変形してしまうんですよ」

「ということはつまり、民主主義の広がりはコミュニケーションの面で限界があるということですね?」

 

失われた惑星の民主化を担当するDDTのエージェントである主人公は、惑星「グラマリエ」に着陸し、女王に接触し、絶対王政から立憲君主制への道筋をつけようとする。貴族政治に異を唱え、独裁を強める女王を諌める。

 

(第2巻 佳境)

「みんなにゆきわたるには、ちょうどの量しかないんだな、この自由というやつは。もっと必要だというものもいれば、少なくていい者もいる。命じる者がいれば、従う者が必要になるからだ」

 

そして、主人公は一方で魔法使いと魔女=エスパーに、惑星間の瞬間通信を担ってもらうことを目論んでいた。

 

(第2巻 299ページ~)

「教育というのは、おれたちはとっくにやりつくした。長い時間がかかったが、それでも、やりつくした。しかし、意志の疎通となると、これはまた別問題だ。

 なぜなら、自由にはもうひとつ違う要素があるからだ。境界というものだ。それが社会を階層化する」

「階層化した社会は、全体主義体制への道に続くのだ」

「魔女たちさ。彼女たちの思考を聞く力。それこそ、おれたちが必要としている意志疎通の機構なんだ」

 

「」でくくったセリフに影響を受けている部分が多分にある。このほかにもキリスト教的純潔、愛、怒りの制御の話もあるが、それはまたの機会に。

 

あと、世界史で習ったことがこの本を読んで"つながった"面もある。

 

辺境の惑星「グラマリエ」では、かつての地球さながらの教会と国王の対立が起きるが、その説明を通じてキリスト教を中心とした世界史の知識がコンパクトにまとまっていたりする。

 

(第5巻 33ページ~)

「教会と国家の対立は昔からよくあることですよ」

「ジョン王が教会と対立したことで英国は聖務禁止令を受けることになり、洗礼も結婚式も葬式も行えなくなってしまいました」

「英国の人民のほとんどは、国王のせいで自分たちが永遠の呪いを受けたように思ったことでしょう」

「ほんの少しばかり常識があれば、人類の戦いの多くは防ぐことができたはずなんですがね」

「宗教と政治がからめば、誰でも夢中になってしまうものなのさ」

 

自分が知ってる未来ものの創作って、たいていグロテスク、ディストピアなんだけど、この作品はまっとうな人類の進歩を想定しているところが好きかなぁ。

果たして実際の我々が、その過程にいるかどうかは分からないけれどw